アタッチメントとは?
皆さんは、「アタッチメント」と聞くと何を連想しますか?
もともとは「取り付ける」という意味を持つ英単語ですが、育児においては
「子どもと親(または養育者)との間に形成される情緒的な絆」や、
「不安を和らげて安心したいという、本能的な欲求」
のことを指します。
近年、このアタッチメントの大切さが重要視されており、2023年12月には日本政府も「こども大綱」(こども政策の方針について定めたもの)の中で、アタッチメントの重要性を強く打ち出しました。
また、2024年5月には「NHKスペシャル」や「すくすく子育て」でもアタッチメントについての特集番組が放送され、それを目にした方も多いのではないでしょうか。
今回からの記事では、「アタッチメント」の重要性についてまとめます。
アタッチメントの種類とその特徴
アタッチメントには4つの種類があり、以下のような実験を行ったときに対象者(赤ちゃん)がどのような行動をとるかで分類されています。
この実験は、7つの段階に分けて行います。場所は普通の部屋で、用意された部屋には最初は誰も居ません。
Ainsworth, Blehar, Waters, & Wall. Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation. Hillsdale, NJ:Erlbaum,1978. ヒルガードの心理学[1] p128より
①お母さんと赤ちゃんが部屋に入ります。お母さんは、赤ちゃんがおもちゃで遊んでいる場所から離れて座ります。
②赤ちゃんの知らない女性(以下女性と表記します)が部屋に入ってきて、1分間静かに部屋で座ります。そして1分間お母さんと会話をします。その後、女性は赤ちゃんとおもちゃ遊びを試みます。
③お母さんが突然部屋から退出します。赤ちゃんが泣けば、女性はあやしてなだめようとします。赤ちゃんが泣かなければ、静かに座りなおします。
④お母さんが部屋に戻ってきます。そして、赤ちゃんとお母さんが遊びます。この時、女性は部屋から退出します。
⑤お母さんが再び部屋から退出します。この時、赤ちゃんは部屋で一人になります。
⑥女性が再び部屋に入ってきます。もしも赤ちゃんが泣いていればあやしてなだめようとします。
⑦母親が再び部屋に戻ってきます。また、女性は部屋から退出します。
安定型
安定型の赤ちゃんは、母親が赤ちゃんのそばを離れようとすると、泣いたり叫んだり、離れることを拒む行動をとります。また、母親が部屋に入ってきたときに抱っこを求めたり、母親のあとをついていこうとします。母親との接触によって分離のストレスを解消し、気持ちを安定させることができます。
安定型のアタッチメントが形成される背景
- 一貫した反応: 親が子どものニーズに一貫して反応し、適切なタイミングで対応する。
- 愛情の表現: 親が子どもに対して十分な愛情を示し、抱きしめたり、話しかけたりする。
- 安心感の提供: 子どもが親に対して信頼を持てる環境が整っている。
- サポート: 親が子どもの感情や行動を理解し、サポートする。
成長後の人物像(どのような人間に育つか)
- 自己肯定感が高い
- 他人との親密な関係を築くことができる
- 他者に信頼を置きやすい
- 問題が発生したときに建設的に対処できる
- 健康で安定した恋愛関係を築きやすい
- 他人の感情に対して共感しやすい
- 自己開示ができる
- ストレスに対処する能力が高い
回避型
回避型の赤ちゃんは、母親が部屋を離れた時も不安や抵抗を示さず、母親が部屋に戻ってきた際も無関心・あるいは回避的な行動をとります。
回避型のアタッチメントが形成される背景
- 感情的な距離: 親が感情的に距離を置き、子どもの感情に対して冷淡である。
- ニーズの無視: 子どものニーズや感情に対して反応が薄い、または無視されることが多い。
- 自立の強調: 子どもが早い段階で自立を求められる。
- 一貫性の欠如: 親の反応が一貫していないため、子どもが安心感を得にくい。
成長後の人物像
- 自己開示を避ける
- 他人と親密になることを避ける
- 自立を強調する
- 親密な関係を避けがちで、距離を保とうとする
- 批判や拒絶に対して過敏で、回避的な行動をとる
- 感情を表に出さず、冷静で理論的に振る舞う
- 自分の感情やニーズを抑え込む傾向がある
不安型
不安型の赤ちゃんは、母親といる場面でも情緒が安定せず、おもちゃで遊んだり部屋を探索したりする行動をあまり行いません。また、母親が部屋に戻った際も、抱き上げようとすると泣き、おろそうとすると怒ってしがみつくなど、身体接触を求めますが同時に抵抗を示すこともあります。
不安型のアタッチメントが形成される背景
- 不安定な反応: 親の反応が不安定で、一貫性がない。ある時は過保護で、ある時は無関心。
- 過干渉: 親が過度に干渉し、子どもの自立を妨げる。
- 愛情の不安定: 親の愛情表現が不安定で、子どもが愛されているかどうかを常に不安に感じる。
- 依存関係: 親が子どもに対して依存的である場合もある。
成長後の人物像
- 他人の評価に敏感
- 親密さを求めすぎる
- 拒絶に対して過度に不安になる
- 自己価値が不安定
- 過度に依存的になりがち
- パートナーの関心を過剰に求める
- 不安が強く、関係が安定しにくい
- 捨てられることへの恐怖が強い
混乱型
混乱型の赤ちゃんは、母親に近づくことはありますが、目を向けようとしないなど、矛盾した行動をとります。静かにしていたかと思うと突然泣き出したり、情緒が不安定で、注意力に欠けており、抑うつ症状を示す赤ちゃんもいます。
混乱型のアタッチメントが形成される背景
- 虐待やネグレクト: 身体的、感情的な虐待やネグレクト(育児放棄)が存在する。
- トラウマ: 親自身が未解決のトラウマや心理的問題を抱えている。
- 矛盾した行動: 親が子どもに対して矛盾したメッセージを送る(近づいてほしいが、同時に遠ざけるなど)。
- 安全感の欠如: 子どもが親に対して恐怖を感じることが多い。
成長後の人物像
- アタッチメント行動が矛盾している
- 他人に対して混乱した感情を抱く
- 親密な関係で混乱や不安を感じやすい
- 過去のトラウマが影響し、感情の安定が難しい
- パートナーに対して矛盾した行動をとりやすい(近づきたいが、同時に避けたいなど)
- ストレスや感情の調整が難しい
アタッチメントスタイルの診断について
以下のサイトでアタッチメントスタイルの診断を行うことができますので、
参考にしてみてください。
愛着(アタッチメント)スタイル診断【公認心理師監修】
親子関係におけるアタッチメントの重要性
親という存在は、子どもが生まれて初めて出会う安心できる人です。
親との触れ合いを通じて、子どもは世界の安全さを学び、信頼関係の基盤を築きます。
あなたは、子どもにとってどれほど重要な存在かを意識していますか?
その日常の一つ一つの瞬間が、子どもの心に深く刻まれ、未来の対人関係や自己肯定感に大きな影響を与えます。次は、親子関係におけるアタッチメントがどのように形成されるか、また、それが子どもの人生に重要な影響を与えることについて理解を深めていきましょう。
「安心感の輪」 ー アタッチメントの土台はこうして作られる

左の手のひらは、子どもが信頼を寄せる大人を表しています。
この手のひらは「安全な避難所」「安心の基地」という、子どもにとって2つの大きな役割を果たしています。大人がこの2つの役割をバランスよく果たすことにより、子どもがこの輪をスムーズに回れるように、また、どんどん輪を広げていく(=自立していく)ようになります。こうして子どもの心が健康に成長・発達していくのです。
安全な避難所としての役割
- 怖くなった時、不安になったときに、いつでも駆け込める場所
- 守り、慰めてもらい、安心感に浸って気持ちを落ち着かせることのできる場所
- 子供の感情に共感し、子どもの心の状態を映し出してあげられる場所
安心の基地としての役割
- 避難所に戻って安心感を得た子ども、元気になった子どもの背中を押してあげる
- 子どもが一人で、あるいは仲間同士で探索に向かっていけるように応援してあげる
- 離れたところから見守ってあげる
大切なことは、「変わらずにいつもあり続ける」こと
安心感の輪が広がって、一人でいられる時間が長くなったとしても、その子どもにとって「安全な避難所」や「安心の基地」が必要なくなったというわけではありません。
何かあったときには必ず戻れるところがある。守ってくれる人がいる。応援してもらえる。励ましてもらえる。子どもがそのような感覚が持てるようになることが重要なのです。
子どもが戻ってこようが、戻ってこまいが、ただ避難所・基地は「変わらずにいつもあり続ける」ということが、一番大切なことなのです。
次回の記事では、「アタッチメント障害について」をご紹介する予定です。
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