この記事の要約

ハイスコーププログラムとは、「非認知能力」の育成に力を入れた教育プログラム。教育を受けた人たちのその後のデータを約50年もの間追い続けており、プログラムの様々な効果が証明されています。
はじめに
皆さんは、「ハイスコーププログラム」という言葉について耳にしたことはありますか?
私は先日、とある保育関係者の集まりで初めてその言葉を耳にしました。
まだ世間に馴染みの薄いこの言葉は、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育などのような「教育プログラム」のひとつです。
そしてその内容は、2000年代以降特に幼児教育の部門でも重要だといわれている「非認知能力」を育てることに重点をおいたプログラムです。

非認知能力とは、一言でいうと「人間力」!
社会的スキル、自己制御、共感力など、豊かに生きるために必要な力だよ!
当ブログでは、ハイスコーププログラムの歴史や、内容・特徴・成果とそのエビデンスなどについて、今回と次回の2回に分けてまとめていきます。
ハイスコーププログラムの概要や目的
プログラムの概要
ハイスコーププログラムは、OECD(経済協力開発機構)から「科学的に根拠のある世界5大幼児教育カリキュラム※」のひとつとして認められ、世界で普及している幼児教育です。
※他には「経験に基づく教育(ベルギー)」、「レッジョ・エミリア(イタリア)」「テ・ファリキ(ニュージーランド)」、「スウェーデンカリキュラム(スウェーデン)」があります。
このプログラムは、1960年代にアメリカの心理学者デイヴィッド・P・ワイカートの指導のもと始まったもので、子どもたちの自発的な学びと能動的な活動を重視しています。
プログラムの核となるのは、「計画-実行-振り返り」のサイクルです。子どもたちは自分で学びの計画を立て、それを実行し、後で振り返ることで、深い理解と実践力を身につけます。
また、ハイスコーププログラムは以下のような特徴をもっています。
- アクティブラーニング:子どもたちが自分で考え、実際に行動することで学ぶ。
- 環境の設定:学びやすい環境を整え、子どもたちが自由に探索できるようにする。
- 成人の役割:教師や保育者はガイドとして、子どもたちの自主性を尊重し、サポートする。
プログラムの目的
ハイスコーププログラムの目的は、子どもたちが自らの力で問題を解決し、創造的に考え、社会的なスキルを身につけることです。具体的には、以下のような目標があります。
- 自主性の育成:子どもたちが自ら考え、行動する力を養います。これにより、自己決定力や問題解決能力が向上します。
- 社会的スキルの発達:他者との協力やコミュニケーション能力を育て、社会性を高めます。
- 感情の調整と共感の促進:感情を適切に表現し、他者の気持ちを理解する力を育みます。
- 学びの基礎力の構築:幼児期における基礎的な学習スキルを身につけることで、将来の学びの土台を作ります。

このプログラムが出来上がった背景には「ペリー就学前プロジェクト」という教育プログラムの存在が欠かせないよ。それについても詳しく説明していくね。
前身となった「ペリー就学前プロジェクト」とは?
ペリー就学前プロジェクトは、1962年から1967年にかけてアメリカのミシガン州イプシランティで同じくデイヴィッド・P・ワイカートにより実施された就学前教育プログラムです。
社会経済的に不利な環境にある未就学児123人をランダムに2つのグループに分け、1つのグループはハイスコープのアクティブラーニングアプローチに基づいた質の高い幼児プログラムに参加し、もう1つのグループは幼児教育を受けませんでした。そしてその2つのグループの成長を追い、様々な能力においてどのような差が出るかを研究しました。
プログラムの内容
- 教育プログラムの提供:
- 適切なカリキュラム:幼児期に適したカリキュラムを設計し、認知的なスキル(言語、数学、認知能力など)だけでなく、社会的なスキル(協力、コミュニケーション、問題解決能力など)の育成にも焦点を当てました。
- 遊びを通じた学び: 子どもたちが遊びを通じて自らの興味や好奇心を追求し、実際に体験しながら学ぶ機会を提供しました。遊びを通じて、子どもたちは自発的に学び、自己表現や創造性を発揮することができました。
- 家族との連携:
- 家庭訪問: 専門の教育者や指導者が定期的に子どもたちの家庭を訪問し、保護者とのコミュニケーションを図りました。家庭訪問では、子どもの成長や発達に関する情報を共有し、保護者に教育上のサポートや助言を提供しました。
- 保護者向けプログラム: 保護者向けのワークショップやセミナーを開催し、幼児の発達や教育に関する情報を提供しました。これにより、保護者が子どもの教育に積極的に関与し、家庭と学校の連携が強化されました。
- 健康や栄養の支援:
- 幼児の健康と栄養を重視し、健康的な食事や健康管理の指導を行いました。
- 健康診断や医療サービスの提供も行い、幼児の健康状態をサポートしました。
- 長期的なフォローアップ:
- プログラム終了後も、参加者の成長や発達を見守り、長期的なフォローアップを行いました。
- 成人期に至るまで、プログラムの影響を評価し、その効果を検証しました。

プログラムのもっと詳しい内容については、次回の記事でしっかりまとめていくよ。日本の保育園での実際の取り組みについてもまとめるね!
このプログラムのすごいところは、実施後なんと約50年間にわたって、プログラムに参加したグループと参加していないグループそれぞれのその後を詳細に追跡し続けていることです。
その結果、プログラムに参加したグループのほうが、5歳時ではIQ、14歳時点では学校の出席と成績、19歳時点では高校の卒業率、そして、27歳と40歳時点では収入や持ち家率など、多くの項目で優れた結果を示していることがわかりました。
ハイスコーププログラムとの関係性
ハイスコーププログラムは、ペリー就学前プロジェクトの成果を受け継ぐ形で開発されました。ペリー就学前プロジェクトの評価研究によって、プログラム参加者が長期的な成果を示し、学業成績において優れた成果を残し、成人してからも、高い収入や高い学歴を持つ割合が他のグループに比べて高いことが明らかになりました。
これらの成果は、幼児期の早い段階での教育支援が将来の成功に大きく影響を与えることを示唆しており、ハイスコーププログラムの開発に大きな影響を与えました。ハイスコーププログラムでは、ペリー就学前プロジェクトでの成果を踏まえ、幼児期の教育が将来の成果に与える重要性を強調し、子どもたちの自主性や能動性を重視したアプローチを取っています。
これらのプログラムは両者ともに、幼児期の教育が将来の成功に大きな影響を与えることを示し、子どもたちの成長と発達を支援するための有効な教育プログラムとして高い評価を受けています。

次回の記事では、実際にどのようなカリキュラムや活動が行われているか、ハイスコーププログラムを取り入れている保育園での一日の過ごし方についてなどをまとめて、総括を行うよ!
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